「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第111話

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最終章 強さなんて意味ないよ編
<おこすあまらんち>



 一先ずドレスの事は横に置いておくとして、いくら国宝級の値段になっているとしてもロクシーさんのために作った事は変わりない。

「ロクシー様、少々人前で身につけるには問題があるものになってしまいましたが、お納めください」

「本当に宜しいんですの?」

「はい。ロクシー様がつける事を想定してデザインされたものなので、もしお嫌でなければ貰ってください」

「そこまで仰られるのなら、遠慮なく頂く事にいたしますわ」

 そう言って、嬉しそうににっこり笑うロクシーさん。
 こうして問題の首飾りは無事、彼女の手に渡ることとなった。

 さて、こうなると問題は残ったドレスだけど、話を聞いた以上流石にあれは出す訳にはいかなくなったので一旦封印するとしましょう。
 何せデザインが大人向けな上に派手な首飾りがより目立つようシックに作られているので、うちの城のメンバーでは誰も似合わないからね。

 と、そこで、

 コンコンコンコン。

 ノックの後、ドアが開いてギャリソンが入ってきた。
 きっと中での会話を聞いて、もうドレスを出す事はなくなったのであろうと気を利かせて次に入ってくるはずだったメイドを下げてくれたのだろう。
 つくづくよく気が付く執事である。

「アルフィン様、夕食の用意ができたようでございます」

「ありがとう。ではロクシー様、移動しましょう」

「はい。どんな料理が出るのでしょう。楽しみですわ」

 そう言って微笑むロクシーさんと連れ立って、私はギャリソンの後について食堂へと移動する。

 中へと入ると、二人で食事するには少々大きめのテーブルに椅子が2脚用意されており、その上には白いスープ皿とワイングラス、そしてカトラリーとナプキンがそれぞれ置かれていた。
 その2脚の椅子の内、奥の方へと私はギャリソンによって誘われ、ロクシーさんは食堂にいたメイドの一人によってもう一つの椅子へと案内される。

 二人が引かれた椅子に腰掛けた所で、今日の晩餐の始まりだ。
 まずはワインが運ばれてそれぞれのグラスに注がれると、オードブルが出てきた。

 今日のメニューだけど、ここはあくまでイングウェンザーの大使館であってレストランではないのでアミューズは無し。
 普通にオードブル、スープ、魚料理、ソルベ、肉料理とサラダ、デザートと言う構成だ。

 ロクシーさんが楽しみにしていると言う事なので、イングウェンザー城から料理長に来てもらって、少々豪華な構成にはなっているけどね。

「まぁ、オードブルからして見た事がない物が並んでいるのですね。これが噂のアルフィン様の国のコース料理、おこすあまらんちと言うものですか?」

 おこすあまらんち? それって一体何の暗号って、ああ、お子様ランチの事か。
 あれ? でも、どこからそんな情報が? お子様ランチって前にボウドアの子供たちに振舞ったくらいよね?

「いえ、これは普通のコース・ディナーで、お子様ランチとは違うものですわ。でもロクシー様、お子様ランチの事、どなたからお聞きになられたのですか?」

「まぁ、違うのですか。初めて見る料理ですから、わたくしてっきり。先日カロッサ子爵がこの町を離れる前に私の所を訪れまして。その時アルフィン様からの夕食のお誘いの話をしたのですが、彼が『部下が持ち帰った情報の中にあったのですが、アルフィン様の故郷にはおこすあまらんちなる大層美味しいコース料理があるそうで、一度で良いから私もその料理を食してみたいものです』と申していたのです。ですから、今回の料理がそのおこすあまらんちなのではないかと考えたのですわ」

 なるほど、それでお子様ランチの存在を知ったわけか。
 リュハネンさんならボウドアの村の館に滞在した事があるし、夕食をボウドアの村長とご一緒したはずだから、その時にでもお子様ランチの事を聞いたのかな?

「なるほど、そういう事情でしたか。えっと、お子様ランチと言うのは確かに私たちの国の料理です。ですがどちらかと言うと、子供たちに好かれる料理を集めて作られたコースでして。確かあの時のメニューはハンバーグとエビフライ、後フライドチキンもあったかしら? そうそう、デザートにはプリンを用意したはずですわ」

「はんばあぐ? えヴぃふらい? どのようなものなのですか、その料理は。それにぷりんとはなんでしょう? 名前からはとても想像できませんわ」

「えっと、ハンバーグはひき肉を香味野菜とパン粉を混ぜて練ったものを味付けして焼いて野菜などで作ったソースをかけたもので、エビフライは海老を・・・って海老、では通じないのかしら?」

 そう言えばこの世界の海は真水だって話だったわね。
 ならもしかして海洋生物自体存在しないとか? ならどうやっても説明できなくなるんだけど。
 あっ、でも川海老とかもいるんだし、似た様な生物は存在するのかも。
 でもなぁ。

 そもそもこの世界の生き物をあまり知らない私では何かに例えて話す事などできない。
 だから、そのものズバリを見てもらうのが一番じゃないかと思うのよね。

「ギャリソン、今日のコースのポワソンはなんだったかしら?」

「七色鯛の焼き物でございます」

「そう、ならそれにオーロラシュリンプのエビフライをつける事は可能かしら?」

「今からでしたら、十分に可能かと思われます」

「なら、お願い」

「畏まりました。では失礼します」

 そう言うとギャリソンは私に一礼し、その後ロクシーさんにも一礼して退室して行った。

 多分厨房に伝えに、いや、もしかしたら城の厨房へ伝えに行ったのかも? だって、指示だけならメイドにすればいいだけですもの。
 お子様ランチの事を考えていたせいでうっかり海老の種類まで指定してしまったから、この館になかった場合はその手配もしなければいけないだろうから、ギャリソン自ら動いたのだろう。

「エビフライに使われている海老と言う食材なのですが、この国に似たような生物がいるかどうか解らないのでどう説明したらいいか解りません。ですから実際に見てもらった方が早いですわね。幸い魚料理の皿が出る際に付けることが出来るようなので、そこで食べていただければ、どのようなものか解っていただけると思いますわ」

「まぁ、それは楽しみですわ」

 実際に噂のお子様ランチの一品を食べられるとあってか、ロクシーさんは嬉しそうに微笑んでいた。

「ではエビフライは後のお楽しみと言う事で、今はこのオードブルとワインを楽しみましょう。あっ、そう言えば要望を聞かずにワインをお出ししてしまいましたが、何か他にお好きな飲み物がありましたでしょうか? 仰っていただければ、ご用意できるものならばお出ししますが」

「そうですか? ならばお言葉に甘えて。もしあるのでしたらスパクリンと言う、発泡する甘口の白ワインが飲んでみたいですわ。これも子爵から聞いた話なのですが、部下の騎士がボウドアにあるというアルフィン様の館で振舞われた時の話を聞いて、とても美味しそうに話す姿から此方も一度で良いから飲んでみたいと申しておりましたの。甘くて発泡するワインなんてわたくしも飲んだことがありませんから、もしこの館にもあるのでしたら飲んで見たいですわ」

 すぱくりん? ああ、スパークリング・ワインね。
 そうか、この世界にはシャンパンのような発泡ワインは無いのね、なら飲んで見たいというのも解るわ。

「幾つかそろえていますけど、甘いものがお好みですか? 発泡ワインは白だけでも辛口からかなり甘いデザートワインまでそろえていますが。いや、実際に味を見てもらったほうが早いですね」

 私はそう言うと、近くにいるメイドに数種類のスパークリング・ワインを持ってくるように指示を出す。
 そして。

「ワインセラーまで取りに行く事になるので少し時間もかかるでしょうから、しばらくはこのワインを楽しみましょう」

「ふふふ、そうですわね」

 こうしてしばらくの間、私たちはお酒を入れながら談笑する。
 そしてある程度場が打ち解けてきた頃を見計らって、何気ない話のような感じで私はロクシーさんにある話題を振った。

「そう言えばバハルス帝国に新たな貴族の位ができたそうですね。確か、辺境侯でしたか。名前からすると侯爵に順ずるくらいですか?」

「あら、お耳が早い事。ええ、私も知らぬ間に陛下が新しい友人を作られたそうで。その方に爵位を授与する際に、今までの爵位では足りぬと新たに帝国貴族の最高位として作られたそうですよ」

 貴族の最高位って普通公爵でしょ? その上の位を作ってまで授与したって事は、それだけその与えられた人が凄い実力を持っている証拠でもあるよね。
 と言う事は、やっぱり辺境候と言うのはプレイヤーと言う事なんだろう。

「それで、その辺境候と言うのはどのような人なのですか? 名前は確か、アイズン様、いえ、アインズ様だったかしら。そんな名前でしたよね」

「ええ、アインズ・ウール・ゴウン辺境候ですわ。爵位を与えられたのが今より15〜6日ほど前とのことですから、陛下はその爵位を与えてすぐに此方に来られたのでしょうね。今思うと、いつもより少し御様子が変でしたからその事と関係しているのかもしれません」

 えっ? そんな前の事だったの? 私はてっきり、イーノックカウから帰ってからの話だと思ったのに。

「私がこの話を聞いたのは4日ほど前なのですが、そんな前の話が今頃この都市に届いたのでしょうか?」

「ええ。何かの命令書ならともかく、新たな貴族の誕生など地方の都市にはさしたる情報ではないですから、これでも早いくらいでしょう。今回この情報がこの速度で伝わったのも、辺境候を歓迎すると言う意味でイーノックカウの駐留軍からも一部、兵士を戦場に向かわせる必要が出てきたかららしいですわ」

 なるほど、確かに社交シーズンならともかく、今の時期では中央の大貴族の動向なんて地方には何のかかわりも無いものね。
 これが皇帝が変わる時のように全ての貴族が集う事になるのならともかく、公爵より上の位と言うのなら叙爵の場に呼ばれるのは本当に上位の貴族だけだろうし、それならわざわざ急いで知らせる必要がないというのも頷けるわ。

 しかし、この間皇帝陛下にお会いした時はすでに辺境候に就任していたのか、その時に知らなくて良かったわ。
 もし知っていても平常心でいられたかと言えばそんな自信、まったくないからなぁ、まず間違いなくそのアインズ・ウール・ゴウンを名乗る人がどんな人物か陛下に訊ねて不審に思われただろうね。

「そう言えば、此方にいらしてからお知りになられたと言う事は、ロクシー様もそのアインズ・ウール・ゴウン様とお会いになられた事はないのですか?」

「ええ。ただ、油断がならない相手だとだけ聞いています。私が会うとしたら王国との戦争が終わった後。戦勝パーティーでの事になるだろうと陛下は仰られていましたわ」

 戦う前から戦勝パーティーの話か。
 と言う事はそれだけそのアインズ・ウール・ゴウンと言うマジックキャスターの力が凄いと皇帝陛下は考えていると言う事よね。

 と言う事は陛下の前でユグドラシルプレイヤーの力の一端を見せたってことなのかしら?
 でもなあ、こう言ってはなんだけどユグドラシルの魔法って強力なのはみんな派手だから、どこかで使えば話くらい伝わってきそうなものなのよねぇ。

 それともまた別の理由があるのかな? ちょっと聞いてみるか。

「戦勝パーティーですが。まだ戦いの前なのに気の早い。でも、それだけ今回の戦争には自信があるということなのでしょうね」

「ええ、そこも不思議なところなのです。例年ではこの戦争は一当たりだけして痛み分けで終わるはずなので戦勝パーティーなど開く事はないのですが。私の見立てでは、無理をしていつもより陽気に振舞われていたようですから、何かあるのかもしれません」

 う〜ん、ロクシーさんにも心当たりがないか。
 と言う事はやっぱりどこかで魔法の力を見せたと言う事なんだろう。

 ・・・待てよ、そう言えば!

「ロクシー様、話題の辺境候はマジックキャスターと言う話ですから、その方の実力がそれだけ凄いと言う事なのでしょう。バハルス帝国にはフールーダ・パラダイン卿と言う強大な力を持ったマジックキャスターがいらっしゃると言う話を私も耳にしていますわ。そのような方ならば人の魔力を見る事ができるタレントを持った方を従えているでしょうし、その見立てで今度の戦争に自信を持っているのかもしれませんね」

 そう、カロッサさんが神聖魔法の力を見るタレントを持っていたもの、魔力系マジックキャスターの力を見るタレント持ちがいてもおかしくはないし、もしそんな人がいるのなら周辺国最強の魔法使いを擁するバハルス帝国に所属していると考えるのが妥当だろう。

「魔力を見るタレントですか? そう言えば、フールーダ卿がそのようなタレントを持っているという話を聞いたことがあるような気が」

「まぁ、フールーダ卿がお持ちになられているのですか」

 何と、強力なマジックキャスターな上にそんなタレントも持っているのか。
 それは何ともチートな話ね。

 と、そんな事を考えながら私は鸚鵡返しをしたんだけど・・・はて? ロクシーさんからの返答がない。
 そこで何かあったのかと思ってロクシーさんに目を向けたところ、なにやら思案顔で押し黙っていた。

「あの、ロクシー様、どうかなされましたか?」

 返事がない、ただの屍のよう・・・じゃなくて声を掛けても返事がないくらい、なにやら考え込んでいる模様。
 さっきの話から何か懸念材料が頭に浮かんだみたいだから、ここは考えが纏まるまでのしばらくの間、黙って待つほうが良さそうだ。

 そう思ってしばらくの間、ワインをちびりちびりと舐めながらロクシーさんが思考の海から帰ってくるのを待っていたんだけど、一向にその気配はない。
 そこで流石にこのままでは不味いだろうと思った私は、意を決して話しかけることにした。

「ロクシー様、ロクシー様。どうかなさいましたか? どこかお加減でも? ロクシー様」

「えっ、ああアルフィン様、これは失礼いたしました。わたくし、ある事が気になって、つい考え込んでしまいました」

 私の三度目の呼びかけに、やっとロクシーさんは思考の海から帰ってきてくれた。
 しかし、ここまで深く考え込むなんて、一体どうしたんだろうか?

「ロクシー様、一体どうなされたのですか? 急に黙り込まれて」

「いえ、少し気になったことがありまして」

 うんそれは解ってる、じゃないと急に黙り込んだりはしないだろうからね。
 私としては、何が気になって黙り込んだのかが知りたいのよ。

「無理にとは申しませんが、話す事によって考えが纏まることもあります。国の大事かもしれませんが、私にはこのバハルス帝国以外に知り合いもおりませんから話したところで他国に伝わる事はございません。どうでしょう、私でよければお聞きしますよ?」

「アルフィン様・・・」

 ロクシーさんは少しだけ逡巡した後、意を決したかのように顔をあげて、まっすぐ私の目を見つめた。

「そうですわね。アルフィン様には話しても問題はないでしょう。というより、話しておいたほうが後々の事を考えると良いかもしれませんものね。私が気になったのは先程話に出たフールーダ卿の事です」

「フールーダ卿の?」

 はて? 先程の話の中でフールーダ卿について何か問題があるような話ってあったっけ?
 もしかしてタレントのこと? でもそれなら黙り込む理由にならないしなぁ。

「はい。私が気になったのはただ一点、なぜフールーダ卿が皇帝陛下と共にここを訪れなかったのかという事なのです」

 へっ? 来なかった事が疑問なの?
 だってここ、辺境だよ? こんな所にわざわざ、そんな凄い魔法使いが来る方がおかしくない?

「もうすぐ戦争になるのでしょう? ならば魔法戦力の要であるフールーダ卿がここに訪れないのは別におかしい事ではないのではないと思うのですが」

「いえ、絶対に来るはずなのです。なぜならアルフィン様がここにいらっしゃるのですから」

 なんですと! 私がいるから絶対に来るはずってどういう事なのよ?

 あまりの急展開に何がなんなのやら解らず、心の中で頭を抱えるアルフィンだった。


あとがきのような、言い訳のようなもの



  ここで切っても当たり前すぎて引きにはならないかな? とも思いますが、文字数の関係で今回はここまでで。

 題名、これではちょっと変かな? とも思ったけど、他に良いものが無かったので、こんなのになりました。
 一応これも伏線としてあったものではあるのですが、小ネタですからねぇ。
 本来なら題名になるようなものではないのですが、アインズ様ネタでは良い題名が浮かばなかったので仕方なく、この様な題名になってしまいました。


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